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新潟地方裁判所 平成8年(わ)7号 判決

裁判所書記官

樋口豊

本店所在地

新潟県中頸城郡大潟町大字犀潟九七番地

代表者の住所

同所

代表者の氏名

平原善彦

有限会社平原善一商店

本籍及び住居

新潟県中頸城郡大潟町大字犀潟九七番地

会社役員

平原善彦

昭和三五年一月二〇日生

本籍及び住居

新潟県中頸城郡大潟町大字犀潟九七番地

無職

平原善一

昭和三年三月八日生

主文

被告人有限会社平原善一商店を罰金一五〇〇万円に、被告人平原善彦及び被告人平原善一を懲役一〇月にそれぞれ処する。

この裁判確定の日から被告人平原善彦及び被告人平原善一に対し三年間それぞれの刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社平原善一商店は、新潟県中頸城郡大潟町大字犀潟九七番地に本店を置き、穀物、飼料およ肥料の販売等の事業を営むもの、被告人平原善彦は、同社の代表取締役としてその業務全般を統括するもの、被告人平原善一は、同社の取締役として同社を実質的に経営していたものであるが、被告人平原善彦、同平原善一は、共謀の上、同社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成三年四月一日から同四年三月三一日までの事業年度における同社の実際所得金額が六〇六九万七六二六円でこれに対する法人税額が二一九七万二〇〇円であったにもかかわらず、平成四年六月一日、新潟県上越市西城町三丁目二番一八号所在の高田税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二七四万六六三九円でこれに対する法人税額が七二万一四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同社の右事業年度における正規の法人税額との差額二一二四万八八〇〇円を免れ

第二  平成四年四月一日から同五年三月三一日までの事業年度における同社の実際所得金額が三三九〇万八五三二円でこれに対する法人税額が一一九二万八一〇〇円であったにもかかわらず、平成五年五月三一日、前記高田税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五八七万四二八六円でこれに対する法人税額が一六一万七三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同社の右事業年度における正規の法人税額との差額一〇三一万八〇〇円を免れ

第三  平成五年四月一日から同六年三月三一日までの事業年度における同社の実際所得金額が八六一六万八三〇五円でこれに対する法人税額が三一五四万九八〇〇円であったにもかかわらず、平成六年五月三一日、前記高田税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一四〇〇万六〇三円でこれに対する法人税額が四四八万六八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同社の右事業年度における正規の法人税額との差額二七〇六万三〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

判示事実全部について

一  被告人平原善彦及び被告人平原善一の公判廷における各供述

一  被告人平原善彦(乙二ないし五)、被告人平原善一(乙七ないし一〇)の検察官に対する各供述調書

一  右塚一浩、山崎伸、平原暁子の検察官に対する各供述調書

一  平原暁子(七通)、松永信治、柳澤喜朋、井澤榮太郎、梅田義昭、高沢清、斉藤涼子、佐藤恵子、和泉昭夫(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  伊藤雪枝、近藤珠實、斉藤良子、佐藤朋子、水島茂二(二通)、柏原勉(二通)、丸山幸子、佐藤實、樋田富美子、青木保、田中敏明(二通)、鈴木祥子、市川大二郎、中井収子、町田邦彦、松沢聡、竹村隅夫、西巻正徳、土屋繁、山浦頴子、田辺文江、三宅辰弥、広岡仁美(二通)、山田ナミ、鬼山美代子、南雲シサ子、柿沼信弘、高橋徳吉、樋口律子、谷金春(二通)、田鹿一男、澤井祥典、柳正二作成の各答申書

一  検察事務官作成の捜査報告書二通

一  大蔵事務官作成の査察官報告書(甲二三)、検査てん末書(六通)、売上高調査書、期首棚卸高調査書、商品仕入高調査書、期末棚卸高調査書、減価償却費調査書、備品・消耗品調査書、雑費調査書、受取利息割引料調査書、道府県民税利子割額調査書、欠損金当期控除額調査書、事業税認定損調査書、預金調査書、売掛金調査書、投資有価証券調査書

一  高田税務署長作成の回答書(甲八三)

一  登記官作成の商業登記簿謄本

判事第一の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(甲九〇)

判事第二の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(甲九一)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(甲九二)

(法令の適用)

被告人らの判示各所為は、各事業年度毎に法人税法一五九条一項(被告人有限会社平原善一商店についてはさらに同法一六四条一項、被告人平原善彦及び被告人平原善一についてはさらに平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条)に該当するところ、被告人有限会社平原善一商店については情状にかんがみ法人税法一五九条二項を適用し、被告人平原善彦及び被告人平原善一については所定刑中いずれも懲役刑を選択することとし、以上は各被告人について平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人有限会社平原善一商店については同法四八条二項により合算した金額の範囲内で罰金一五〇〇万円に、被告人平原善彦及び被告人平原善一については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内でいずれも懲役一〇月にそれぞれ処し、諸般の情状に鑑み、同法二五条一項を適用して被告人平原善彦及び被告人平原善一に対しこの裁判の確定した日から三年間それぞれの懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、主として米の集荷販売業を営む被告人会社の代表取締役である被告人平原善彦と取締役で実質的な同社の経営者である被告人平原善一が共謀の上、平成三年四月一日から三年度分の同社の所得金額を過少申告することにより法人税合計五八六二万二六〇〇円をほ脱したという事案であるが、こうした被告人らの所為は税負担の公平を害し、善良な国民の納税意欲を阻害するものとしてそれ自体厳しい非難を免れない。被告人らは、本件各犯行の動機として、被告人会社の業種が景気の浮沈による影響を大きく受ける業種であるため不景気の際に対応できるようにしておきたかった、あるいは、新しい倉庫の建設資金や精米により発生する糠を使用して有機肥料の製造販売という新規事業を営むための資金を確保したかったなどと供述しているが、そうした事情は事業経営者であれば大なり小なり共通に抱える問題であって、格別酌むべき事由にはあたらない。また、犯行の結果をみると、ほ脱金額が多額であることはもとより、ほ脱率は平成四年三月決算期分で約九七パーセント、平成五年三月及び平成六年三月各決算期分でそれぞれ約八六パーセントといずれも高率であって、悪質というほかはなく、長期間にわたり売上げ除外や棚卸し除外を行い、入金にあたり既存の口座を利用したばかりでなく、隠し預金口座を新規に開設し、利益については借名口座を設けて預金するなど犯行前後の態様も芳しくなく、被告人らの刑責は軽視できない。

しかしながら、被告人らは本件各犯行を率直に認めて深い反省の情を示していること、修正申告を行い、ほ脱した税金もすべて納付済であること、被告人平原善彦には前科前歴がなく、被告人平原善一にも同種前科がないこと、被告人平原善一は経営の現場から退き、高齢で健康状態も優れないことなど被告人らに有利な事情も認められるので、被告人平原善彦と被告人平原善一に対しては今回に限りそれぞれその懲役刑の執行を猶予することとした。

(出席した検察官猪ノ原眞哉)

(裁判官 清水研一)

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